格助词「が」
1.主体を表す格
「が」は、述語で表される事態に対して、もっとも基本的な役割を担う名詞につく格助詞である。述語で表される事態に対する、もっとも基本的な役割とは主体である場合が多い。そのため、「が」は,主体を表す格助詞の中で中心的なものとなっている。
述語が動きと状態に大別されるのに対応して、主体も動きの主体と状態の主体に分かれる。さらに、これとは別に、名詞述語文において、名詞と名詞を同定する同定関係の主体がある。
1.1動きの主体
動きの主体とは、時間の流れの中で、何かが起きたり、何かが変わったりする動きを引き起こす存在としての主体である。動きは動詞述語によって表される。意志的な動きであるか否か、および主体に変化が生じるか否かによって、動きの主体には,意志動作の主体,受身的動作の主体、自然現象の主体、変化の主体、心的活動の主体といったものがある。
1.2状態の主体
状態の主体とは、時間の流れの中で、動きも変化もなく前後が同じあり方であるという事態の中心存在としての主体である。状態はおもに形容詞、名詞述語によって表されるが、一部の動詞も状態を表す。状態の主体には、存在の主体、能力の主体、心的状態の主体、性質の主体などがある。なお、状態の主体は、存在動詞「いる」の主体を除いて、無意志的な主体である。
1.3同定関係の主体
同定関係の主体とは、名詞述語文において,名詞と名詞の同定関係が示されゐ場合の主体である。
例文:
あの眼鏡をかけた人が田中さんだ。
郵便局の右隣の家が私の自宅です。
2.対象を表す格
動作の対象とは、主体が行う動作が向けられるものの、そのものには変化が生じない存在としての対象である。動作の対象には、働きかけの対象と言語活動の対象がある。
働きかけの対象とは、意志的な主体による働きかけの及ぶ対象である。働きかけの強さには程度差がある。
述語が状態性のものである場合には、「が」が対象を表すことがある。「が」の対象としての意味には、心的状態の対象、能力の対象、所有の対象がある。
2.1心的状態の対象
心的状態の対象とは、感情や知覚の向けられる対象である。
「うれしい」「悲しい」「好きな」「嫌いな」「ほしい」「心配な」のような感情を表す形容詞の対象は、「が」 で表される。
例文:新しいパンコンがほしい。
「見える」「聞こえる」「わかる」のような知覚を状態的に表す動詞の対象も、「が」で表される。
例文:変な音が聞こえるぞ。
2. 2能力の対象
能力の対象とは、能力が向けられる対象である。述語が主体のもつ能力を表すものである場合、能力の対象が「が」で表される。
例文:私はギリシャ語の文献が読める。
この子はまだ1人で服が着られない。
「読める」「着られる」などを述語とする構文を可能構文という。可能構文では,対象を表すのに、元の動詞(「 読める」に対する「読む」、「着られる」に対する「着る」の対象を表す「を」を用いることもある。
例文:
私はギリシャ語の文献を読める。
この子はまだ1人で服を着られない。
2. 3所有の対象
存在を表す「ある」「いる」「ない」や分量の多寡を表す「多い」「少ない」を述語とする文は、有情物を「に」で表す所在構文をとるとき、「が」で所有の対象を表すことがある。
例文:
私には大きな夢がある。
田中さんには大学生の娘さんがいる。